祭っぽい仕事
私は今日本語教師をしながら文章を書いている。
日本語教師は日本語を学習したい人に日本語で日本語を教える仕事だ。媒介語(日本語以外の、学習者に通じる言葉)を使う場合もあるが、基本的に国内で教える場合は日本語で教えることが多い。
ライターの頃は外からやってきて、話を聞いてそれをまとめて発信する仕事だった。リサーチ、取材、テープ起こし、ライティング、納品、SNSでの拡散が一連の仕事の流れだ。打ち上げ花火のように、記事を出す。まるで祭りだ。自分はその主役か準主役だった。
今の仕事の流れは授業準備、授業、ふりかえり、授業準備、授業、ふりかえりの繰り返し。教える相手や教える箇所や教材は変わるが、文法項目などはほとんどやることは変わらない。クラスは10人とか20人。学校なので、入学式、卒業式などは祭っぽさはあるけれど、主役はあくまで学生だ。自分はサポートに回る側。
ライターの仕事を減らして、日本語教師の仕事が生活の中心になってからというもの、虚無の気持ちだった。祭が仕事だったときは祭の準備があって、それに向けて仕事するという感じだった。それが張り合いのようになっていた。だけど、今は祭はなくなって淡々と毎日のことをやるだけだ。最初はそれが凪に思えて毎日つまらない、何も面白いことがないという気分だった。
しかし、よくよく毎日注意深く授業してみると、学生は毎年変わるし、一人ひとりの学生にも変化がある。クラスも一人休んだだけで雰囲気がすごく変わる。前は祭みたいな仕事だったけど、今の仕事は逆で、祭ができるように日々を整える仕事って感じ。
ところで、日本語教師は今の日本では一種の政治的な仕事だ。
国策として日本は今労働力が少ないために外国人労働者の受け入れを推進している。外国人を労働者として受け入れる方法は技能実習、特定技能などいろいろあるが、留学生もその一つだ。
日本語学校は基本的には勉強したい留学生として受け入れているが、学生の多くは週28時間以内と定められたアルバイトをしており、アルバイトをしなければ学費や生活費が賄えない者も多い。
女性活躍で女性が社員になってアルバイトが減ったり、少子化で学生のアルバイトが減って、その代わりに留学生を呼んでアルバイトで労働力を賄いたいという国の意図を感じる。
日本語学校にはいろいろ種類があり、外国にいる学生を呼び寄せるために留学ビザを入管に申請して出してもらえる種類の日本語学校は告示校と呼ばれている。私はそのタイプの学校で働いている。告示校は学生の進学率や出席率を入管に報告しないといけなくて、それが悪いとビザの申請をするときの書類がものすごく増えたりする。そのため、学校側としては留学生の管理を厳しくする。つまり、告示校は入管の下請け機関として代わりに留学生管理をやっているようなもので、告示校で働く日本語教師にとっては学生管理も仕事のうちだ。私は非常勤なので基本的には教えるだけだが、やはり、そういったことは意識せざるを得ない。
私は現在の入管体制や先日変わった入管法に反対の立場だが、一方でそういった仕事をしているということで国の体制の一部を担当していると感じる面がある。私は自分の思想と行動に矛盾を感じている。倫理的な人から見ればこのような態度は二枚舌とか、体制側に従順な態度に見えるかもしれない。
自分も入管体制の一部を担っているようで、それが嫌でやめたくなったこともある。じゃあライターで打ち上げ花火で変化を起こせるかっていったらそんなすぐには起こせない。デモとか社会運動とかTwitterデモも、自分はあまり性は合わない(思想とかじゃなくてただ集団行動が嫌い)からあまり参加していない。
日本語学校は留学生にとって最初の日本との接点となる場だ。人種差別をしない、同化を押し付けない、など自分ができることがあるんじゃないかという思いがある。せっかく来たのだから日本語が上手になってほしい。卒業後一人で日本でちゃんとやっていけるようになってほしい。私はナショナリストじゃないし、日本にいいところもあれば悪いところもあると思うけど、それでも嫌いなものは教えられないから、教えているとやっぱりどっかで日本語を好きになってもらいたい気持ちはある。
ライターは、祭の日しか来ない寅さんみたいなもので、いきなりやってきてかき乱して変化を起こす感じ。逆に今の仕事はミクロなところに小さいながらも影響を与えて、変化を起こす感じ。祭が仕事じゃなくなったばかりのときは、つまらないと思っていたけど、少しずつ毎日のミクロな変化が見えてくるようになると、面白味も感じるようになってきた。こういう日々の積み重ねの中で現場で少しずつ変化を起こすようなやり方もあるはずだ。今は現場で少しでもマシな教師になりたいと思っている。
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